もし地球の質量が2倍になったとしたら、私たちの暮らしや自然環境はどう変わるのでしょうか。
空気、水、建物、生き物、そして私たちの「食卓」まで、重力のわずかな変化は世界のあらゆる仕組みに影響を与えます。
この記事では、地球の質量2倍=1.26Gの世界で何が起きるのかを解説します。
地球の質量を2倍に増やす
どこかから地球と同じ密度の土や岩を丸ごと1個分持ってきて、地球に合体させた。
その結果、地球は少し大きくなり、質量は2倍、重力は 1.26G になった。
地球の大きさをそのままで質量だけを2倍にするのは難しいので、どこかから「地球1個分の土」を持ってきて2倍にすることにします。あるかもしれないので。
質量が2倍になると、地球の半径は約 1.26倍 に膨らみます。
つまり、重力は「2倍」ではなく、1.26倍にとどまることになります。
体積は半径(\(r\))の3乗で決まります。
質量が2倍になると、\(r^3 = 2\) なので \(r = \sqrt[3]{2}\) \(r \approx 1.26\)。
ブラックホールのような極端な重力世界ではありませんが、私たちの暮らしや環境は確実に変わり始めます。
1.26Gの世界とはどんな環境なのか
重力が1.26倍になるということは、地球上のすべてのものが 今より26%重くなる ということです。
体重が60kgの体重は、75kgになります。
ここで重要な前提があります。
それは、重力が強くなる世界では基本的に「大きくて重いものほど不利になる」という点です。
これは人間の体にも、建物にも、生き物にも、すべて共通して当てはまるルールです。
空気も水も地面も「少しだけ重い」世界になる
重力が強くなると、空気の粒子も強く地表に引き寄せられます。
その結果、地上の大気圧は現在よりわずかに上昇します。
息ができなくなるほどではありませんが、階段や坂道では今より確実に疲れやすくなります。
心臓や肺にかかる負担も増えます。膝も痛くなるかもしれません。
水の世界も同様です。
水そのものの重さが増すことで、泳ぐときの抵抗が少し大きくなります。
川の流れはわずかに鈍くなり、船や水中生物にとって「進む」「止まる」という動作の燃費が悪化します。
建物・橋・インフラは静かに寿命が縮む
重力が1.26倍になるということは、建物や橋、トンネル、配管など、
あらゆる構造物の 自重が1.26倍になる ということでもあります。
見た目には何も変わらなくても、内部では次のような変化が進みます。
・金属疲労が早まる
・コンクリートの劣化が早まる
・古い構造物から順に負担が増える
その結果、世界が突然崩壊するわけではありませんが、インフラの維持に大きな影響を及ぼすでしょう。
陸の生物はどう変わるのか:大型ほど不利
1.26Gの世界では、生き物にも同じように負担がかかります。
骨格や筋肉にかかる負担が増加します。長期的には、より強い体格に適応する可能性がありますが、初期には健康上の問題が生じるかもしれません。
特に影響を受けやすいのが、キリンやゾウのような大型動物です。血液を高い位置まで押し上げるために必要な血圧も増えます。
心臓の仕事量も増えるため、大型の生物ほど生きにくい世界になります。
これは「すぐに絶滅する」という話ではありません。
しかし長い時間をかけて見れば、体を小さく、重心を低くする方向が有利になる、そんな進化の圧力が静かにかかり続けることになります。

世界の動きを決定づけるのは「質量の増加」と「慣性」
1.26Gの世界で、見落とせないのが、「慣性」の影響です。
慣性とは、物体が「動き続けようとする性質」や「止まりにくさ」を表す性質です。
質量が増えると、この慣性の働きを強く感じるようになり、次のような変化が起こります。
・動き始めにくくなる
・止まるのに時間がかかる
・方向転換がしにくくなる
車、電車、飛行機、船などの乗り物だけでなく、生き物の動きそのものが重くなります。
この「質量の増加による慣性の強化」は、次に述べる海の世界でも大きな影響を与えます。
海の生物:最初に限界を迎えるのは…
水中では浮力があります。
魚自身の重さは1.26倍、それを支える水の浮力も1.26倍になり、重さと浮力の比率は変わらないため、重力の影響は小さいと考えられます。
しかし、陸と同様大型の生物や、行動パターンによっては不利な影響が出るでしょう。
水平方向への移動(慣性)には影響ありませんが、
上下方向の移動、急加速や急停止、急旋回等の動きに、より多くのエネルギー(筋力)が必要になる可能性があります。
マグロ・カツオといった大型の回遊魚にとっては不利な環境になると考えられます。
それ以上に影響を受けるのは、サケのように「川をさかのぼって繁殖する魚」です。
海から川へ入り、流れに逆らい、ときには滝を跳び越えて産卵場所へ向かいます。
サケは基本的に一生に一度しか産卵しない魚です。
そのため遡上に失敗すると、その個体は子孫を残せません。
この性質のため、サケ・マス・アユなどの魚が急激に数を減らす可能性が高いです。
一方で、イワシやアジ、サバのような小型魚は、体が軽いため受ける影響も小さく、天敵が減ることにより、相対的に有利な立場になると考えられます。

そして「私たちの食卓」も変わる
生物の進化は、通常は何万年、何十万年という時間がかかります。
しかし 漁獲量や流通の変化は、数か月から数年という短いスパンで起こります。
大型の回遊魚が減り、小型魚が増え始めると、市場に並ぶ魚の種類はすぐに変化します。
イワシやアジ、サバなどが獲れやすくなる一方、
サケやマグロやカツオは、特別な日にしか食べられないような「高級魚」になる可能性があります。
つまり1.26Gの影響は、生態系の変化よりも先に、私たちの「食卓の変化」に現れるのです。
まとめ:たった1.26倍で、世界は変わる
地球の質量が2倍になり、重力が1.26倍になった世界では、
突然大災害が起きるわけではありません。
しかし、大気・水・生態系・構造物など、あらゆる仕組みが新しい条件で動き始めます。
その変化は大型生物やインフラの負担増として現れ、自然界と社会のバランスをゆっくりと変えていきます。
そして最も早く実感できるのは、流通と資源の変化が直撃する「私たちの食卓」かもしれません。
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