1. 重力が時間に影響する理由
アインシュタインの一般相対性理論では、重力は「質量が時空を曲げる現象」として説明されています。
曲率が大きい(=重力ポテンシャルが深い)場所ほど、局所の時間の進みは遅くなります。
この現象を gravitational time dilation(重力による時間の遅れ)といいます。
2. 時間の遅れを表す式(静的・球対称:シュワルツシルト解)
重力の影響が無視できる遠方での時間 \(T\) と、重力場にある時計の時間 \(T_0\) の関係は、次式で表されます。
$$ T = \frac{T_0}{\sqrt{1 – \frac{2GM}{Rc^2}}} $$
- \(G\):万有引力定数
- \(M\):天体の質量(kg)
- \(R\):観測点の半径(m)
- \(c\):光速(m/s)
この式は、時間の遅れが「重力加速度」ではなく、重力ポテンシャル(位置エネルギーの深さ)によって決まることを示しています。
同じ加速度でもポテンシャル差が違えば、時間差は異なります。
参考:生活や実務に役立つ高精度計算サイト「keisan」|重力による時間の遅れ
3. 地球での数値例
地球の質量 \(M \sim 5.974\times10^{24} \ \mathrm{kg}\) 、半径 \(R \sim 6.378\times10^{6} \ \mathrm{m}\) を代入すると、地表の1秒に対して遠方では次のように進みます。
\(T_0\)(地表) = 1.000000000000 秒
\(T\)(遠方) = 1.0000000006956 秒
つまり、地表の時計は遠方の時計より1秒あたり約 \(6.956 \times10^{-10}\) 秒だけ遅く進みます。
この差は非常に小さいため、日常生活では体感できません。
しかし、GPS衛星のように地球から2万km以上離れた軌道では、相対論補正を行わなければ位置情報に誤差が生じてしまいます。
この差はごくわずかですが、人工衛星の時計では無視できません。
そのためGPS衛星では、常にこの時間のズレを補正し、正確な位置情報を提供しています。
4. ブラックホール近傍での極端なケース
事象の地平線(event horizon)に近づくほど
\(1 – \dfrac{2GM}{Rc^{2}} \rightarrow 0\) となり、式の分母の平方根が0に近づきます。
遠方から見ると、時間はほぼ停止して見えます。
- 外部の観測者:落下する物体の時計は極端に遅く進む(停止に近づく)ように見えます。
- 落下している本人:自分の時間は通常どおりに進んでいます。
これは、観測者の位置によって「時間」の定義が異なることを示しています。
5. まとめ
重力による時間の遅れは、重力ポテンシャル差によって生じます。
地球上でも、例えば標高差によってもごくわずかな差が生じ、衛星測位では補正が必要です。
ブラックホール近傍では効果が極端になり、遠方から見ると時間が「停止」に近づきます。


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